結晶釉の器 やきもの工房 ちぇらみか・しげみ

陶器の表面にキラキラと華が咲く亜鉛結晶釉の器を、徳島市眉山の麓で作っています。
煌びやかで落ち着きのある結晶の美しく不思議な世界を、ゆっくりとお楽しみください。




 結晶釉って何?

 

まずは、釉薬のお話から…

釉薬は、「ゆうやく」と言ったり「うわぐすり」と言ったりしますが、陶器の表面を覆っているツルツルしたガラス質の部分です。陶器はたいてい、形を作って乾燥させたら、800度前後で素焼きをして、その後、表面にどろどろとした釉薬をつけて1200~1300度ぐらいで本焼きをします。この本焼きで、釉薬が融けて、あのガラス質の部分ができるわけです。本焼きの途中で釉薬の中の成分が大きな結晶になる釉薬のことを、結晶釉といいます。その代表選手みたいなのが、私が使っている亜鉛結晶釉で、亜鉛華結晶釉とも言います。

 

結晶釉の器

 

亜鉛華というのは酸化亜鉛の別名で、亜鉛結晶釉の場合、釉薬の約25%が酸化亜鉛です。これは、普通では考えられないくらい多い分量です。 そして、その多い酸化亜鉛が、本焼きの途中で結晶になって、このキラキラとした模様になります。そう言うと、とても簡単そうですが、実は、キラキラした結晶に育てるためには、色々な仕掛けが必要です。そこで、結晶に魅せられてしまった陶芸家たちが、あの手この手を使って、結晶を育てているというわけです。私もその作家の一人。


結晶を育てる仕掛けの一つは、焼成方法です。多くの陶器は、目的の最高温度まで上げると、そこから自然冷却に入りますが、結晶釉の場合は、最高温度から約100度下げたところで、数時間、ねらしの時間を作ります。私の場合は、約3時間半。最高温度で十分に融けた釉薬が、このねらしの間に結晶を作っていくわけです。ねらしの時間も、最高温度も、おそらく、陶芸家によって皆まちまち・・・のはず。私は、最高温度までに、900度で一度ねらしたりもしています。最高温度を何度にするか、何度で何分ねらすか、自分の求める結晶になるまで、ただひたすら実験あるのみ。

 

結晶釉の器

 

少々専門的な話をすると、釉薬の調合にも仕掛けがあります。釉薬の調合をする場合にゼーゲル式という計算式があります。ゼーゲルさんという人が編み出したのでゼーゲル式といいます。簡単にいえば、釉薬に使う原料の成分から、どの成分が何モル入っているかを計算して、それぞれのモル比をもとに、その釉薬がどういう雰囲気になるかを調べられるものです。例えば、最近、私が使っている結晶釉なら、酸化アルミニウムとケイ酸が、他の成分トータル1モルに対して、0.17:1.5ぐらいになって、酸化亜鉛は0.6前後になるように調整しています。といっても、実際に調合する原料は、珪石や長石なので、その中にどれくらいの比率でそれぞれの成分が混ざっているかは、産地によって違うし、さらには、同じメーカーから仕入れても、時期によって微妙に違うはず。ですから、計算は、あくまでも目安でしかないのですが、ただやみくもに調合を変えるよりは、ずっと成功率が高くなることは確かです。

 

結晶釉の器

 

しかし、ある程度安定したパターンが見つかると、今度は、「他にもあるかも?」と思ったり、「もっと違う結晶も…」と思ったり。いや~、人間って欲張りです。でも、結晶釉にはそれだけの魅力があります。作っていても、使っていても・・・。作り手としては、人間の手の届かないところで、最後の仕上げがされることが、大きな魅力かもしれません。それを、どこまで自分の手でコントロールできるか。1000度を超える窯の中は、自分は手出しできないし、見ることすらできない世界。でも、そこで起こることを操作する。いわば、偶然ではない偶然を作るのです。 使い手として、最初に感動したのは、水につけた時です。結晶のキラキラは、水につけると空気中とは違う輝きを放ちます。見る角度や光の具合でも、様々な表情を見せます。
結晶釉を使っている陶芸家は、日本ではそれほど多くないので、お店でも、あまり見かけないかもしれません。 でも、この結晶のファンの一人として、この美しい輝きを、是非、多くの方に知っていただきたいと思っています。


結晶釉に出会ってからの詳しいお話は、「結晶釉に出会ってから」で綴っております。